下野(インタビュアー):
「保全ノウハウ継承サービス」は、今後どのように広げていく構想でしょうか。
吉田様:
我々が最終的に目指しているのは、「ものづくり・製造業における属人化の課題を解決し、知が循環する製造業を実現する」というビジョンです。その第一歩として現在は設備保全に取り組んでいますが、今後の展開については「幅」「深さ」「高さ」という3つの軸で構想しています。
第一に「幅」の拡大です。工場内には生産オペレーションや生産技術など多様な業務が存在し、それぞれに属人化という共通の課題があります。今後は対象領域を広げ、工場全体の属人化課題を一気通貫で解決していくことを目指します。
第二に「深さ」の追求です。現在は音声や言語といった非構造化データを主に扱っていますが、今後はこれを深化させ、計測データや稼働データといった構造化データと組み合わせることで、新たな示唆の発見や、より高度な予兆保全の実現も可能になると考えています。
第三に「高さ」の視点です。一つの企業内にも複数の工場が存在し、さらに視座を上げれば、業界全体が同様の課題を抱えています。ビジネスにおける「競争」領域とは別に、業界全体で協力すべき「共創」領域が存在すると考えており、その領域においては、ナレッジシェアや業界横断のナレッジプラットフォームの構築といった展開も視野に入れています。これにより、日本全体の製造業の競争力を底上げすることに貢献できるのではないか。我々はそのような大きな目標まで見据えています。
下野(インタビュアー):
最後に、日本の製造業・ものづくりをさらに元気にしていくために、東京ガス様として描かれているビジョンを、このプロダクトへの思いも含めてお聞かせください。
吉田様:
東京ガスは、エネルギー供給を基盤に、ものづくりや社会の安心・安全を支えてきた会社です。属人化の解消はもちろんのこと、お客さまが本来有している現場の知見という「資本」を、永続的に守るためのお手伝いをしていきたいと考えています。それと同時に、私が強く抱いているのは、「現場で働く方々の負担を少しでも軽減したい」という純粋な思いです。私自身、東京ガスに入社した時、ガス空調という分野の技術開発部門に配属されました。その分野の存在すら、当時は全く知りませんでした。性能試験では、付帯設備のメンテナンスも自分たちで行う必要があります。優秀な先輩がいて、目まぐるしいスピードで説明をしてくれるのですが、専門用語が多く、メモを取ることすら追いつきません。後日、改めて同じ質問をしようとしても、多忙な先輩の時間をこれ以上いただくのは申し訳ないという気持ちが働き、次第に質問をためらうようになってしまいました。一方で、先輩には先輩で、「一度教えたのだから、あとは自分で考えて成長してほしい」という親心があったのかもしれません。お互いに悪気はないものの、こうした小さなすれ違いが、結果として若手の成長機会を妨げてしまうこともあるのではないかと、当時の経験を通じて感じました。
これらは、まさに人が介在するからこそ生じてしまう、無用な摩擦やフラストレーションと言えるでしょう。6、7割の領域は、人ではなくAIや機械を活用し、本当に重要なコアの部分を人が担う。人とAIにはそれぞれ得意不得意がありますから、その役割分担を明確にしていきたい。結果として、極めて個人的な動機を申し上げれば、過去の自分のような経験をする人をなくしたい、という思いがあります。あの時の私と同じような、悔しい思いをする人を一人でも減らしたいのです。現場の負担や負荷を低減できれば、それは個人の成長に繋がり、個人の成長は組織の成長、ひいては企業の持続的な発展に繋がっていきます。その連鎖が、日本のものづくり・製造業を活性化させ、日本全体を元気にすると信じています。それを実現することが我々のミッションであり、エムニ様をはじめ、多くのパートナーの皆様と共に成し遂げていきたいと強く願っています。
下野(インタビュアー):
めちゃめちゃ同じ思いだなと思いながら、伺っていました。エムニは最近、ミッション・ビジョン・バリューを改訂して、ビジョンに「製造業におけるAI活用のハブになる」を掲げています。AI活用がサイロ的に行われることで、再開発が起きたり、同じ失敗が繰り返されたり、無駄が生まれてしまっている。我々がそのハブになって、知見やノウハウを貯めて、別のお客さまとの取り組みに生かしていくことで、成功確率を高めたり、本当は半年かかるものを3ヶ月でできるようにしたりする。テクノロジーの力で製造業をエンハンスして、「日本を盛り上げる」ことにコミットしていきたい。まさに御社と、ビジョン・ミッションは同じ方向だと感じました。
田村様:
エムニ様に我々が期待しているのは、まさにお話にあった「ハブ」としての役割です。AI技術や開発スピードはもちろんのこと、「日本のものづくりを良くしたい」という共通の目標に向けたハブとして機能していただき、ぜひ積極的なご提案をいただきたいと願っています。我々もワンチームの一員として、提供できる技術や知見は惜しみなく共有していきます。日本を盛り上げていくために、一緒に、さらに取り組んでいきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
下野(インタビュアー):
本日は貴重なお話を、本当にありがとうございました。