2026.10.2

学びと成果が循環する 「AIネイティブ組織」のつくり方

Microsoft Copilotの全社展開をいち早く完了させたJFEケミカル様が、次に取り組んだのは業務を深く知るメンバーによる一段上のAI活用。ワークショップ型のClaude Code研修と、研修を組織変革につなげる仕組みづくりで「AIネイティブ組織」を目指す取り組みをご紹介します。

JFEケミカル株式会社 DX推進室長 和才様、株式会社エムニ 執行役員 八木

AI研修で終わらせない。

生成AIの全社導入を終えた企業が、次に向き合うのが「使いこなしの深さ」です。JFEケミカル株式会社様は、Microsoft Copilotの全社展開をいち早く完了させ、利用状況を継続的に追ってきました。そのうえで次に取り組んだのが、業務を深く知るメンバーによる、もう一段上のAI活用でした。目標は「生成AI活用 業界ナンバーワン」。エムニはワークショップ型のClaude Code[1]研修と、研修を組織変革につなげる仕組みづくりで、AIネイティブな組織づくりを支援しました。研修から2週間後の調査では、集計できた13名だけで82件の業務改善テーマが動き、年間約4,400時間の削減効果(試算)が確認されました。

本記事では、インタビューを通じ、2つのテーマでその取り組みをご紹介します。

1. 研修と、組織に浸透させる仕組みの同時設計

Claude Codeの研修に加え、アンバサダー制度、事例共有、効果測定という浸透の仕組みをセットで運用し、AI活用を組織に浸透させる。

2. 「底上げ」を続けながら、「引き上げ」を重ねる

生成AIの活用を職場に広げるアンバサダーを、全社への普及を担うチームと、Claude Codeで高度な活用を開拓するチームに分け、両方を同時に進める。

[1] Claude Code(クロードコード)=Anthropic社が提供するAIエージェント。チャット形式で指示するだけで、PC上のファイル操作やデータ集計、資料作成からアプリケーション開発までを自動で行える。

ベテランの知識をどう残すか。そこから始まりました。

インタビュー中の様子

インタビュアー:

本日はありがとうございます。まず、エムニとの出会いのきっかけからお聞かせください。

和才様:

一番最初は技能伝承でした。ベテラン社員が長年かけて培ってきた知識を、次の世代にどのように残すか。その方法を探す中で行き当たったのが、エムニさんの「AIインタビュアー」でした。AIがベテランに問いを重ねて、熟練者の暗黙知を形式知に変えていく。それがエムニさんを知ったきっかけです。実際にお話ししてみると、技能伝承に限らず、こちらが抱えている課題を幅広く受け止めて一緒に考えてくださいました。製造業に特化して生成AIの活用を支援されている会社ということもあり、「ここと一緒に全部相談しながら進めたら、いいようにできるんじゃないか」。そう思ったのが始まりでした。

「生成AI活用 業界ナンバーワン」に向けて

インタビュアー:

AI活用を取りまとめるお立場として、どのような成果を期待されていましたか。

和才様:

社長から「JFEケミカルは生成AI活用で業界ナンバーワンを目指す」という方針が掲げられていました。ただ、何をもってナンバーワンとするのか。まずそこから考える必要がありました。製造業に特化して伴走支援いただけるエムニさんには、目標の描き方から一緒に考えて、生成AIをしっかり活用している状態まで持っていってほしいと期待していました。

八木(エムニ):

「生成AI活用 業界ナンバーワン」は、私にとっても強く印象に残っている言葉です。和才さんとの打ち合わせの前に、どうすればナンバーワンになれるのかを調べました。そこで突き当たったのが、「ナンバーワンの定義」の難しさでした。

インタビュー中の様子

和才様:

そうなんですよね。そもそも「業界」の定義をどうするのか。売上や従業員数といった規模の指標で競うことは、この目標の本質ではない。そうすると、利用率や削減率のような「率」で見るのか。定義をしっかりさせないと、ナンバーワンは目指せないなと考えていました。

八木(エムニ):

製鉄所と同じ敷地で、コークス製造時の副生成物を原料に化学製品をつくる。JFEケミカル様の事業は、一般的な化学メーカーと横並びで比べにくいんです。だとすれば、競う軸を規模から活用の「広さ」と「深さ」に移してはどうか。全社員が当たり前にAIを使っている広さと、他社がまだ手をつけていない使い方を先に開拓している深さ。その両方が揃えば、ナンバーワンになりえるのではないか、とご提案しました。

Copilotの二極化と、2軸のアンバサダー戦略

インタビュアー:

「広さ」と「深さ」を、それぞれどのように進めていかれたのでしょうか。

和才様:

Copilotは比較的早く全社に導入して、利用状況もずっとフォローしていました。すると、使いこなしている人と、これからという人とで、活用度に幅が出てきました。使える環境は全社に行き渡っている。ただ、活用を広げることにも、深めることにも、まだ大きな余地がある。これからという人を後押しして活用を広げる「底上げ」と、先行している人に一段上のAI、たとえばコーディングAIを届けて活用を深める「引き上げ」。この二軸が必要だと思っていました。

八木(エムニ):

この二軸に対して、それぞれ打ち手をご提案しました。広げる軸では、研修を通じてリテラシー全体を底上げしていく。深める軸では、よく使っている方に、活用の旗振り役である「AIアンバサダー」を担っていただき、Claude Codeのような、全社にはまだ普及していない高度なツールを先行して使っていただく。ただ、この2つを別々に走らせるだけでは、深めた成果が一部の人に閉じてしまいます。

そこで、両者をつなぐ循環まで含めてご提案しました。まずアンバサダーが、自分の業務で成果を出す。その成果を社内の共有スペースに投稿して、誰もが見られる状態にする。見た人が「自分も使いたい」「この業務を効率化したい」と、自分ごととして受け止める。次は自分もと考えた人が研修を受け、また成果を出して共有する。深める動きが広がりを生み、広がった裾野から、さらに深める人が出てくる。この学びの循環を生み出すことを狙いとしました。

インタビュー中の様子

和才様:

アンバサダーの置き方も工夫しました。よく使っている人の中にも、実は2種類いるんです。ひとつは、誰も思いつかないような使い方を開拓している人。もうひとつは、メールの下書きや議事録の要約のような、ライトだけれど頻度の高い使い方をしている人。前者には「高度活用チーム」として、新しい使い方を切りひらく役割を。後者には「普及推進チーム」として、みんなが真似しやすい使い方を広める役割を担ってもらいました。深めるチームと広げるチーム。二軸をそのまま人に割り当てた形です。

「今はClaude Codeです」。その場で決めた切り替え

インタビュアー:

高度活用チームの皆様に向けて、Claude Codeの研修を実施されたと伺いました。数あるAIツールの中から、Claude Codeを題材に選ばれた理由をお聞かせください。

和才様:

実は当初、別のAIツールを使った研修を考えていたんです。ところが準備を進める中で改めて打ち合わせをしたときに、八木さんが「時代が変わって、今はClaude Codeですよ」と。どんなことができるのかを伺って、これはすごいことになるぞと思いました。私たちが深める軸で求めていたのは、まさにこういうツールだと。その場で、研修の題材を切り替えることを決めました。

インタビュー中の様子

八木(エムニ):

2026年の春頃から、Claude Codeが一気に「非エンジニア向けのツール」に変わってきました。それまではエンジニア向けのツールだったのですが、コードが書けなくても、自分の業務プロセスを理解し、何をしたいかというゴール設定ができれば使える。しかもファイルの集計から資料づくり、アプリケーションの開発まで可能です。業務を一番よく知っているのは現場の皆さんですから、その方々が直接AIに指示を出せるようになる意味は大きい。これは絶対に導入すべきと考え、研修の題材を切り替えるご提案をしました。

和才様:

研修をもし1、2ヶ月早くやっていたら、こうなっていないと思います。エムニさんが最新の動向を常に追いかけているから、いま何を選ぶべきかを、ちょうどいいタイミングで示してもらえました。

受講者の目の色が変わった研修当日

インタビュアー:

研修当日、受講者の皆様にはどのような反応や変化が見られましたか。

インタビュー中の様子

和才様:

印象的だったのは、前半の講義への反応です。生成AIがどういう仕組みで動いているかを知らないメンバーが大半で、「そういうことでハルシネーション[2]が起きるんだ」と、理解が一気に深まった。非常に評判が良かったです。研修を受けた役員からも「この部分はCopilotを使っている全社員が知っておいた方がいい」という声が上がり、その内容は全社員が閲覧できる形にまとめて展開しています。

八木(エムニ):

研修で大事にしたことは2つあります。まずは原理原則をしっかり理解いただくこと。Claude Codeに関係なく、生成AIとはどういうもので、どう付き合っていけばよいのか。まず「知る」ことが大事です。その次がワークショップです。AIと対話しながら、自分の業務プロセスを洗い出していく。ここには、和才さんが最初に見つけてくださった「AIインタビュアー」の考え方も入れています。業務は一人ひとり違いますから、その業務プロセスごとに、どういう「Skills」[3]を作れば良いかを、実際に作りながら学んでいく。皆さん、最初と最後で目の色が全然変わっていて、技術によってワクワクする体験を届けられたのではないかと思います。

[2] ハルシネーション=生成AIが、事実と異なる内容をもっともらしく出力してしまう現象。

[3] Skills(スキルズ)=Claude Codeに登録できる、業務に合わせた自動化コマンド。よく使う手順をファイル化しておくことで、繰り返し再利用できる。

2週間で82件、年間4,400時間の削減効果

インタビュアー:

「半日かかっていた業務を5分で再現できた」といった受講者の声も伺っています。研修後の活用の実態はいかがですか。

和才様:

研修の2週間後に、実際にClaude Codeをどう使っているか、実態調査をしました。もともとCopilotをよく使ってくれていたメンバーですが、活用の幅が一気に広がっていました。これまで手が回らなかった業務の棚卸しや、効率化のテーマが次々と上がってきた。みんなこういうものを求めていたんだな、それを実現する技術が研修で身についたんだな、と分かりましたね。

インタビュー中の様子

インタビュアー:

そこから、どのような効果が見えてきたのでしょうか。

和才様:

22名が研修を受けて、そのうち13名の集計をした時点の数字ですが、2週間に82件の改善テーマが生まれ、年間の削減時間に換算して約4,400時間という結果になりました。お伝えしておくと、これは「同じ作業を人手でやっていたら、これだけ時間がかかっていたはず」という前提でAIが試算した数字です。前提付きの数字ではありますが、たった2週間でこの規模の効果が見えたことは事実で、投資に見合う成果だと考えています。

インタビュアー:

内訳には、どのような特徴がありましたか。

和才様:

データ処理・分析が約30%、次いで文章作成でした。本社は全社からデータが集まってきて、それをまとめる仕事が多いので、ここは納得感がありました。特筆すべきは3番目です。「アプリ開発・改修」が約18%を占め、年間に換算すると約780時間になります。今までアプリなんて作ったことがない、コードも書けないメンバーが、自分の業務の棚卸しをする中で「こういうアプリケーションがあったらいいよな」というものを、2週間で7件作り上げているんです。ここがClaude Codeならではの価値だと思います。

インタビュー中の様子

インタビュアー:

印象に残っている活用事例はありますか。

和才様:

「よくここまで作ったな」と思ったものがあります。社内に蓄積してきた技術論文、約3,000本をデータ化して、要素技術ごとに分類し、誰がどの要素技術で何本書いているかをデータベースにした人がいるんです。検索すると、その分野に詳しい人が要素技術マップ上に示され、その人の論文の原文まで辿れる。そんなアプリを、1週間ほどで自作していました。最初にお話しした技能伝承にも通じる話で、社内のどこにどんな知見が眠っているかが見えるようになります。

業務プロセス分析ワークショップの様子業務プロセス分析ワークショップの様子
研修の一環として実施している業務プロセス分析ワークショップの様子

研修で終わらせないエコシステム

インタビュー中の様子

インタビュアー:

事例投稿やアンバサダー制度など、研修のあとも効き続ける仕組みをセットで設計されました。その意図をお聞かせください。

和才様:

大事なのは、研修のあとに何が起きるかです。しっかり持ち帰って、自分の業務、自分の組織に広げてもらうところまでが研修だと考えています。だから研修に加えて、それを後押しする仕組みまでをセットで設計しました。

八木(エムニ):

Claude CodeはPCを直接操作できる、力の強い道具です。だからこそ、一定のリテラシーと意欲を備えた方から順に広げていく必要があります。全社に一斉に配って終わり、という進め方ではなく、研修でリテラシーを身につけた方が成果を出し、それを見た人が次に続く。そのために、成果を社内で共有する場を作りました。共有があるから次の人が動き、動いた人がまた共有する。この循環まで含めて設計しました。

和才様:

これは結構うまく回っているんじゃないかなと思っています。共有される事例が、これからさらに増えていくことを期待しています。

浮いた時間を、価値の源泉である現場へ

インタビュー中の様子

インタビュアー:

全拠点への研修展開の先に、どのようなAI活用の姿を描いていらっしゃいますか。

和才様:

コーディングAIをしっかり活用していくと、総合職や事務系の仕事の生産性は大きく上がると思います。仕事の種類によっては3割、大きいものでは5割から7割の向上も見込めるはずです。そうなったときに、生まれた時間で何をするか。業務効率化は、いずれ一巡します。その先は、AIと相談しながら新しい事業を考える。そういう使い方になっていくと思います。

インタビュアー:

会社としては、どのような変化につながっていくのでしょうか。

インタビュー中の様子

和才様:

化学工業の会社として、価値の源泉はやはり製造現場、フィジカルなところです。デスクワークをAIで効率化できれば、その分の人と投資を現場に振り向けられます。価値を生む場所に、より厚く資源を配れる会社になっていく。そういう変化があるんじゃないかなと思っています。

八木(エムニ):

AIは、人を幸せにしてこそ価値がある。私はそう思っています。AIと人との共存の中で、浮いた力をより価値のある仕事に振り向けていく。その変化を、引き続きご一緒していきたいです。

エムニとの協働を振り返って

インタビュー中の様子

インタビュアー:

最後に、エムニとの取り組みを振り返って、印象に残っている点をお聞かせください。

和才様:

エムニさんが一番違うのは、「研修で終わらせない」ところです。課題があって、研修をやって、その効果として何が生まれたか。そこまでを一本の線でつないで考えてくれる。研修そのものを提供する会社は多くありますが、効果まで一緒に見てくれるところが違いだと思います。また、製造業に特化していろいろな事例をお持ちなので、研修の中にリアルな事例を入れてもらえるのも特徴ですね。あとは、研修から出てきたテーマの中には、Claude Codeだけでは実現が難しいものもあります。そこはエムニさんに、オーダーメイドのAI開発で応えていただきたい。研修から開発まで一気通貫でお願いできるのは、大きな強みだと思っています。

インタビュー中の様子

八木(エムニ):

我々は「製造業におけるAI活用のハブになる」というビジョンを掲げており、製造業のAX、AIトランスフォーメーションの加速をめざしています。リテラシーを上げるための研修も、業務に特化したオーダーメイドAIの開発も揃えているのが強みです。研修を通じて皆様と話す中で、「あれもやってみたい」「これもやってみたい」が必ず出てきます。中にはClaude Codeでは解けない課題も出てくるはずで、そこにオーダーメイドAIの開発で応える。そこで得たものを、またリテラシーとして皆様にお伝えする。この行き来を重ねて、最後はご自身の力でAIを動かせるようになっていただく。製造業のAI活用がここに集まり、また現場へ戻っていく。そのハブであり続けたいと思っています。引き続きよろしくお願いいたします。

インタビュアー:

本日は貴重なお話を、本当にありがとうございました。

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